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忘れていくのが怖いから【穴澤賢の犬のはなし】

忘れていくのが怖いから

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少し前に別れを経験した者としてで「心にできた穴は時間が癒してくれるとしかいいようがない。経験者がそういうのだから信用してもらいたい」と書いた。たしかにそのとおりなのだが、ひとつ言い忘れたことがあったので付け加えておきたい。
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犬や猫との別れを経験した人が、新たな犬(猫)を迎えるかどうかについて考えるとき「亡くなったあのコに申し訳ない」という気持ちになると聞く。彼らとの暮らしが楽しいことは十分知っている。きっと次に来るコも可愛くて仕方ない存在になるだろう。だけど、そうしたら次第に先代犬(猫)のことを忘れていくのではないか。そうなったらなんだか申し訳ないし、否定できない自分も怖い。そんな心境になるという。
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自分自身を振り返ってみても、大吉を迎えるときにそうした気持ちは多少あった。いつか来る別れに、またあんな思いをするのは嫌だという思いも強かった。それらを乗り越えてというよりは、あれよあれよという間に断れない状況に追い込まれてしまったため、大吉を迎えることになったのだが、結果的にはよかったと思っている。
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なぜなら、犬がいる暮らしはやっぱりいいからだ。毎日の散歩や留守番の心配など、楽しいことばかりではないが、いつもそばに犬がいるほうが、心が落ち着く。生活がしっくりくる。そういう「体質」になってしまったのかもしれない。それにいざ大吉と暮らしてみると、先代犬である富士丸を忘れてしまうのではないかという心配など杞憂(きゆう)であることもわかった。大吉との暮らしの中で、愛おしさは増していくが、かといってその分富士丸の記憶が薄らいでいくことはなかった。
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たぶん人間の記憶とは、洗面器に張った水のように容量を超えたら溢れ出すようなものではなく、本当に覚えていたいことはいつまでも覚えていられるようにできているのではないかと思う。大吉との思い出が増えていく一方で、富士丸との思い出もしっかり覚えている。福助が来てからもそうだ。もちろん記憶のカタチや色合いは少しずつ変わっていくが、ある程度の月日が流れると、逆にどっしりとした重みで心のどこかに残るようになる。
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長年連れ添った犬や猫を亡くした人の中には、またすぐに新しいコを迎える人がいる。私もそうかもしれないが、たとえばペットブログをやっている人が新たな犬との生活を綴っているのを見たりすると、「そんなに早く気持ちって切り替えられるんだ」と思うかもしれない。そこは(勝手に)代表者として断言しておきたいが、みんな忘れてなどいない。というよりも、そんなに簡単に忘れられるわけがない。でも、もうどうにもならないことを語るよりは、少しでも楽しいほうがいいと考えてのことだろう。
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だから、忘れてしまうのが怖いと感じている人には、そんな心配はいらないと伝えておきたい。かといって、早く次のコを迎えなさいとか、そういうことを言うつもりはまったくない。前にも書いたが、焦る必要はないから、自分で考えて、好きなようにすればいいと思う。なんだかそっけないようで申し訳ないけれども。
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