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穴澤賢の犬のはなし 穴澤賢の犬のはなし

Vol.31 4周忌を迎えて〜その2

富士丸がいなくなって4年が経つ。一般的に「ペットロス」という症状になった人がどのくらいの年月で立ち直るのものなのか、よく知らない。立ち直る、という表現も少し違うのかもしれないが、自分についていえば、あれだけの衝撃からよくここまで回復したものだと思う。今更ながら、何もあんな別れ方をしなくてよかったんじゃないのかと、あいつにいってやりたい気持ちもある。

富士丸がいなくなった経緯は、この連載でも以前お伝えした。そのせいで、未だにトラウマがある。犬に留守番をさせることが極端に恐くなってしまったのだ。1時間や2時間ならなんともないが、5時間を過ぎたあたりから、いいようのない不安を感じる。それに気が付いたのは、まだ大吉が来る前のことで、頼まれて人の犬を数日預かったときだった。預かった2頭の犬がいると、家をあけることにものすごく不安を感じたのだ。

とはいっても、数日間まったく外出しないわけにもいかないので、なるべく近所で用事を済ませるようにして大急ぎで帰ったりしていた。ドアを開けて家に入り、犬たちが元気なのを確かめると「あぁ、無事でよかったぁ」と胸を撫でおろした。バカみたいな話だが「数時間家をあけたくらいで犬は死なない」ということを、このときに再確認したのだった。この経験が、また犬を迎えることになるひとつのきっかけになったのかもしれない。

そうこうしているうちに大吉が我が家に来たわけだが、留守番させることに不安を感じるのは同じだった。が、そのうち慣れるだろうと思っていた。たしかに、ここ数年で多少は和らいだ。ドアを開けるときに心臓がドキドキすることもなくなった。しかし、ある程度までは慣れても、まだどこかに不安が残っている。犬や猫を飼っている人なら誰しも、留守番をさせている間は多少の不安を感じるはずだ。しかしその不安とは明らかに度合いが違う。

それはちょっとした恐怖といってもいい感情だ。昔はなかった。あのことがあってからだ。だからこれは4年前のトラウマなんだろう。小さな黒い塊のようなものが、ずっと胸の奥にあるような気がする。

それが杞憂であることもわかっている。家に帰っても、大吉はなんともない。イタズラもしないし、拾い食いもしないし、コンセントをかじったりする心配もない。けれども、絶対に大丈夫という保障はない。昨日まで元気だったから、今日も元気だとは限らない。何が起こるかわからないということを身をもって知ってしまったがために、完全に否定することができない。

この不安は、たぶん一生消えないだろう。それはそれで別にいいと思っている。何事もない日々の日常がありがたいと思えたりもするし、大吉の留守番はなるべく短くするよう心がけているので、むしろ奴にとってはいいことだろう。

大吉には長生きしてもらいたい。しかし、いつかは必ず別れの日がやって来る。そのときは今度こそ最後をちゃんと看取らせて欲しい。それだけが願いだ。

たぶん、ペットロスと呼ばれる症状になったことのある人は、何かしらトラウマを抱えているのではないだろうか。新しい犬を迎えても、その犬もいずれはいなくなる。しかし、個人的には大吉を迎えてよかったと思っている。富士丸のことを忘れたこともない。それが4周忌を迎えた今の素直な感想だ。

作者プロフィール

穴澤賢(あなざわまさる)

1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に「ひとりと一匹」(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック「Another Side Of Music」(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った「またね、富士丸。」(世界文化社)などがある。2012年には、実話をもとにした猫の絵本「明日もいっしょにおきようね」(草思社)を手がける。酒好き。
Another Days    富士丸な日々

大吉くん

オス・2才
新しい飼い主さがしのサイトを通じて穴澤さんのもとへ。

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