ひと言だけ話せるとしたら【穴澤賢の犬のはなし】

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ひと言だけ話せるとしたら

「犬が言葉を話してくれたら……」、飼い主なら誰もが一度は思ったことがあるはずだ。かくいう私も、無理なことは承知のうえでそう願うことがある。

先日、いつものように仕事をしていると、大吉が椅子のすぐ横に来て何やら目で訴えてきた。時計を見ると午後3時。散歩に行くのはだいたい4時ごろだからまだ早い。すぐれた体内時計を持つ大吉が間違うはずはない。「どうした？」と言っても、ゆらゆらとしっぽを振るだけ。

なんだかわからなかったが「ま、いいか」と仕事に戻った。それからしばらくパソコンに向かって集中していると、「クゥン」という控え目な声が背後から聞こえた。振り向くと、また大吉が目で何かを訴えている。時刻は3時半。そこで「そうか！」と気がついた。この日、大吉は朝の散歩でウンチをしなかった。それでちょっと早いけど今したくなっちゃったわけね。「わかったわかった、行こう」と仕事を中断して、散歩に出ることにした。

くしくもこの日は、小雨まじりの雪。外はかなり寒い。しかしそんなことは言っていられない。大吉がウンチしたいんだから（絶対家ではしてくれない）。寒いし濡れるのは嫌だけど、気合を入れて外に出た。

が、大吉は歩けど歩けどウンチをしない。なぜだ。したかったんじゃないのかお前。その後、雪の振る中1時間ほど歩きまわったが、結局せず。散歩に出る直前に、仕事の電話がかかってきたり（かけ直すと言ってすぐ切ったが）、レインコートを着せたり、バスタオルを準備したりしてモタモタしていたから、便意も「ひっこんで」しまったのだろうか。

福助はたまにあるが、大吉が朝と夕方にウンチをしないことなんてまずない。すぐにまたしたくなるはずだろうと考え、暗くなる直前の5時半に再び散歩に行くことにした。相変わらず雪が降っており、めちゃくちゃ寒い。が！なぜかまたしない。それどころか、「こんなに寒い日になんで2回も散歩に行くの？早く帰りたいんですけど」的な顔をする大吉。えぇ!?　俺が悪いの？