タダでもらえる犬（補足）【穴澤賢の犬のはなし】

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タダでもらえる犬（補足）

少し前にタダでもらえる犬について書いた。ペットショップで買う以外にも、飼い主さん募集サイトなどから、言葉は悪いがタダでもらえる犬や猫がいるという内容だ。そのことについて読者の方から質問があったので、補足しておきたい。

質問してくれた人は、動物保護団体から保護した犬を引き取って飼い主になりたいと申し込んだのだが、独身という理由だけで断られたという。自宅で仕事をしているので共働きの夫婦に比べても留守番は少ないはずだが、そのことを説明する前に門前払いされてしまった。独身だと、飼い主にはなれないのでしょうか？　という内容だった。

その点については、説明不足だったことをお詫びしたい。新しい飼い主さんを募集しているくらいだから、手をあげれば喜んで「どうぞどうぞ」と譲ってくれると思っている人がいるかもしれないが、実はそんなに簡単ではない。多くの場合、飼い主になるには乗り越えなければならない壁がいくつもある。

施設や保護団体によって違いはあるが、まずはアンケートに答えなければならない。多いところで50項目くらい質問があったりするし、内容も家族構成から、住宅事情、出産の予定の有無など、このご時世で信じられないくらい踏み込んだことを聞かれる。その時点で憤慨して辞退する人もいるらしい。アンケートをクリアして面談になってもさらにいろいろ聞かれるし、トライアル飼育になれば家の中まで見られる。

当初は保護犬を引き取りたいと考えていたが、保護団体のこうした態度に嫌悪感を抱いて、途中で辞めてしまう人もいるという。それにも耐えてあれこれ手続きを踏んだのに、最終的に保護団体から「あなたには譲渡できません」と一方的に断られることもある。多くの人は軽い気持ちではなく、申し込んだ時点で覚悟を決めているはずだし、写真で見た犬との暮らしを夢見たりしているだろう。それなのにちゃんとした説明もなく断られたら「あんたら何様よ！」と腹が立つのもわかるし、自分のことを全否定されたようで落ち込む気持ちもわかる。

ただ、保護団体の方にも事情はある。というのは、保護した犬猫の多くは無責任な飼い主によって一度は命を落としかけた経緯があるため、保護したからにはもう絶対に同じ目にはあわせない、という「誓い」があるからだ。ある保護団体の方もおっしゃっていたが、ペットを捨てるのは、動物嫌いの人ではなく（嫌いなら最初から飼わない）、実は「可愛い！」だけで飼ってしまう「にわか動物好き」が一番多い。さらには、悪質な「里親詐欺」なんてのも実際にあるらしい。

そのため、ハードルをかなり高くしている団体が多い。申し込む方は軽い気持ちでも、騙すつもりでもないが、まずは疑ってかかる姿勢になってしまうのはある意味仕方ないといえる。また、熊本市動物愛護センターでは譲渡会の前に里親希望者に講習を行っているのだが、その中では実際に犬や猫が殺処分される映像が流れる。取材したときに私も見たが、二度と見たくないと思った。しかし現場で働く人や、保護団体の人たちは、そんな光景をいつも見ているはずなのだ。

そうした現場で働く人たちから見れば、この間の私の「タダでもらえる犬」は、「そんな軽くいってくれるなよ」と受け取れたかもしれない。その点も重ねてお詫びしたい。

前置きが長くなってしまったが、質問に対する答えは「独身だからといって、絶対に飼い主になれないわけではない」ということ。が、私が富士丸をもらった当時と今とでは状況はかなり変わっていると思うが（富士丸は本当に崩壊しかけのブリーダーのところから誓約書も何もなく「はいどうぞ」だった）、保護団体によっても条件は違うし、個人で保護活動をやってらっしゃる方もいるので（大吉のときがそう）、最後まで面倒を見る覚悟があることをしっかり説明すれば、きっとわかってくれるところがあると思います。

ざっと「新しい飼い主募集」にまつわる事情を書いてみたが、まだよくわからない人もいると思う。そういう人にオススメしたいのが、片野ゆかさんの『保健所犬の飼い主になる前に知っておきたいこと（新潮社）』だ。この本には、これまで述べてきたことのほかにも、タイトル通り保護犬の飼い主になるために必要な情報と知っておきべきことが書かれているので、ものすごく参考になると思います。以上、えらい長い補足になってしまいました。