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何気ない日常の中に【穴澤賢の犬のはなし】

何気ない日常の中に

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この連載も今回で100回目を迎えるらしい。連載を始めたころ、わが家にいたのは大吉だけだったのに、今では福助も加わり、引っ越しも2回して、わずか2年ほどの間にけっこう状況が変わっていることに驚く。100回記念で何か特別なことでも書きたいところだが、さてどうしたものか。
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あれは富士丸を亡くして一年ほど過ぎたころだったろうか。ある雑誌の取材を受けたことがある。犬特集か何かの企画だったが、当時は犬と暮らしていなかったのになぜかオファーがあったのだ。そのとき、記者から「愛犬との一番の思い出は何ですか?」と聞かれたのを覚えている。予期しない質問だったので、しばらく考え込んでしまった。
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富士丸との一番の思い出、か。夏場のスキー場に遊びに行って、思い切り走らせてやったこと。泊まりがけでキャンプ場へ行って、昼間はしゃぎすぎた反動で夜は死んだように眠っていたあいつの姿。渓流釣りを邪魔されたこと。いっしょにゴンドラに乗って登った御嶽山。富士丸とは、本当にいろいろなところへ遊びに行った。今となってはすべてがいい思い出だ。
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けれど、考えて考えて、ようやく答えたのは「いつもの、ふだんの生活の中で、夜にビールを飲んだりしている隣に、富士丸がゴロゴロしていたことですかね」というものだった。自分でも意外だったが、一番の思い出は何かといわれたら、なぜかそんな場面が頭に浮かんだのだ。
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夜、ソファを背に晩酌しながら好きなDVDをぼーっと観る。後ろのソファには富士丸がでろーんと横になっている。ほとんど無意識に手を伸ばすと、首まわりのもふもふした感触とほんのりぬくもりが伝わる。もちろん旅行も楽しかったが、何気ない暮らしの中で、当たり前のようにあいつがそばにいる時間が一番好きだった。いなくなってから、そのことに気がついた。
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今は、大吉と福助がソファでゴロゴロしている。わが家はなぜか人間が床に座り(テーブルの高さ的にそのほうが落ち着くから)、犬がソファを占領するスタイルなのだが、この間晩酌をしながら大吉と福助をなでていて、そういえばと思い出した。それが当たり前すぎてついつい意識が薄らぐが、こうしている時間は実はとても貴重であるということを。
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だからといって何をどうこうするわけでもないのだが、この連載を始めたころは、大吉のことについて「まだわんこだ」といっていたのに、いつの間にか自分の中ではすっかり「人」のような扱いになっている。福助は「まだまだわんこ」だけど。犬というのは、本当に不思議な存在だ。
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