知りたいこと、知りたくないこと
だいたい決まった時間に散歩をしていると、同じような時間帯に犬の散歩をしている人と出会う頻度が増えてくる。犬たちの相性がよければ、犬同士が挨拶しているうちに自然と言葉を交わすようになったりする。同じ地域で犬と暮らしている者同士、ネットでは得られない有益な情報交換ができることもある。しかし、ときには知りたくない話も……。
人見知りの私だが、さすがに何度も顔を合わせている人から話しかけられればふつうに会話くらいする。そんな感じでいつも散歩している砂浜で、頻繁に会う飼い主さんがいる。犬の年齢も大福コンビと近いので、犬たちがニオイをかぎ合っている間に他愛もない話をすることが多い。
今回の話の本題に入る前に、散歩コースの話をしたい。毎日砂浜の海岸を散歩していると言うとうらやましがる人がいるが、実は困ることもある。まずは風。風が強い日は、砂が舞いあがるのだが、ちょうど犬の目線あたりに砂風の帯ができるため、そんな日は避けたい。雨の日も嫌だが、自分は長靴を履いて、あとで犬の足を念入りに洗えばいいだけなので、風が強い日よりはいい。
それから真夏は砂がかなり熱くなるので、早朝しか歩かせられない。何より海水浴客でごった返すし、夕方には早々と花火をする若者たちがいるので、花火嫌いの大吉を連れてはいけない。そんなわけで、風の強い日と海水浴シーズンは砂浜ではなく、別の散歩コースに行くようにしている。が、どこでもいいわけではない。なぜなら以前書いたように、大吉も福助も基本的に土の上でしかウンチをしないからだ。
幸いにして、少し歩いたところに小高い山があり、そこに公園を発見したので、砂浜がダメなときはそちらへ行くようにしていた。人が少なく、どことなく薄暗くてカラスがやけに多い公園で、坂を登るのもけっこうつらい。しかし背に腹はかえられない。とはいえ、もっといい感じの散歩コースが近所にないものかと常々思っていた。
おばさんと立ち話をしているときにそのことを思い出し、それとなく聞いてみた。私は今住んでいるところに越してきてまだ1年も経たないが、おそらく地元の人であろうおばさんならどこかいい場所を知っているのではないかと思ったからだ。おばさんが「じゃあ砂浜がダメなときはどこへ行ってるの?」聞くので、山の公園だと答えた。以下は、この後のおばさんと私の会話である。
「へぇそう、あそこへ行ってるんだ。でもあの公園、気味悪くない?」
穴「えぇ、まぁ。なんだか薄暗いし、いついっても人がいないし」
「あそこ、首つり自殺があるからね」
穴「ええっ! そうなんですか?」
「私の犬友達の旦那さんが第一発見者になったことがあるのよ」
穴「ええっ!本当ですか?」
「あの公園、昔からだいたい年にひとりくらい亡くなるの」
穴「……」
「嫌よねぇ、そんなの見たくないじゃない。だから私は行かないんだけど」
穴「僕も行きたくなくなったじゃないですか」
「でも大丈夫よ、その発見した旦那さんも未だに犬の散歩に行ってるって話だから。気にしなければいいじゃない? あ、変なこと教えちゃってごめんね。アハハハ」
そう言っておばさんは去っていった。そして、私は貴重な散歩コースをひとつ失ってしまったのだった。